ランニングブームから読み解く日本のフィットネス界のこれから

倉本 岳
当サイトの監修・執筆者

ここ数年で「走る女性は美しい」「仕事に効くランニング」など、女性誌やビジネス誌の表紙でランニングの文字を見かける機会が増えました。

「SNSで友達がフルマラソンにチャレンジしたのを知った」「会社で駅伝大会に誘われた」など、何かしらの形でランニングに接点を持ったことのある方も多いのではないでしょうか。

 

今、ランニングがブームです。原宿にあるナイキのショップへ行くと、1階のフロアはランニング用品で埋め尽くされ、連日たくさんの買い物客で賑わっています。なぜ、たくさんの人がランニングに打ち込むようになったのでしょうか。

 

この記事では、ランナーとマーケターのそれぞれの視点からランニングブームが起こった理由を読み解いていきます。

 

私のMorning Running Club(通称モニラン会。2013年4月に創設された、皇居を中心に活動する述べ参加者3000名を超える都内最大級のランニングクラブ。)の代表をしてきた経験と、前職の(株)ベネッセコーポレーションでマーケティング業務に従事してきた経験から分析をお伝えします。

ランニング人口は大阪府の人口とほぼ変わらない

ランナーの足

ランニングがブームと言っても、実際にどの程度の人がランニングを行っているのでしょうか。

 

そこで、スポーツ振興のための情報収集や政策提言を行なっている笹川スポーツ財団が公表している「スポーツライフに関する調査報告書」を確認してみました。

報告書によると、2016年時点の調査では、成人のジョギング・ランニングの年1回以上の実施者は893万人と推計され、このうち467万人が週1回以上の実施者であると推計されるそうです。

 

年によって多少の変動はありますが、大阪府の人口が約880万人、サッカーのロシアワールドカップで準優勝したクロアチアの人口が約420万人です。

この数字からも日本のランニング人口がもの凄いことがわかります。

 

さらには20年前とランニング人口を比較すると、成人のジョギング・ランニングの年1回以上の実施者は約200万人の増加、週1回以上の実施者は約100万人も増加しています。

さらに週2回以上の実施者となると約120万人の増加です。

 

このランニングブームを読み解くために、ランニングが注目されたキッカケを考えてみましょう。

「メタボ」がランニングブームのキッカケか!?

ハンバーガーセット

私のランニングチームのメンバーに聞くと、多くの方がダイエットや運動不足解消のためを理由にランニングを始めています。

どうやらンニングブームの背景には健康志向の高まりがあるようです。

 

90年代以降、海外から多くのファーストフード店が日本に進出しました。

また、ランチタイムのオフィス街を見てもわかるように、吉野家や松屋など日本発のファーストフード店もサラリーマンで賑わっています。

日本人の食生活は外食産業の発展とともに、高カロリー化していきました。

健康志向の増加の背景に、この日本人の食生活の変化は無視できないでしょう。

 

ここに日本人の働き方の変化も影響してくるのではないかと思います。

98年にマイクロソフト社がWindows98を発表しました。そこから急速にパソコンが日本で普及しました。

今では小学校からタブレットを用いて授業をする時代です。

技術革新によりデスクワークの働き方が増加し、日本人が体を動かす機会は減少したと言えるでしょう。

 

このように、高カロリーの食生活になり、体を動かす機会が減少すれば当然太りやすくなります。

 

一時期メディアを賑わせた、「メタボ」という言葉を覚えているでしょうか。

2006年には「メタボリックシンドローム(※内蔵脂肪が増加し、生活習慣病などにかかりやすくなっている状態のこと)」、通称「メタボ」が流行語に選出されました。これは、高カロリーの食生活と体を動かす機会が減少したことによる時代の流れと言えるでしょう。

 

このような流れで、日本人の健康志向が高まっていったのだと思います。

「お金をかけずに、心身の健康のために何かしたい」

マッチョな男性

2006年に「メタボ」が流行語に選出され、「健康のために何かしたい」という意識を持つ人が増えてきたであろう2008年のことです。

 

世界的な不況とも言える「リーマンショック」が起こります。このことにより、人々の節約をしようとする意識がより高まったことは言うまでもありません。

また、今でこそメンタルヘルスが注目をされてきましたが、バブル時代と異なり、努力をしても結果が出づらい不況時の経済の停滞感は、多くの社会人にとって大きなストレスとなったでしょう。

 

これらのことから、日本人の健康志向は「お金をかけずに、心身の健康のために何かしたい」という形になっていたのではないでしょうか。

この健康志向の受け皿として、ランニングは最適なスポーツでした。

 

ランニングを始める際に必要な道具はほぼありません。運動靴を持っていれば、初期投資は0円で始められます。

さらに、ランニングによって血行が促進されることにより、ランニングには自律神経が整いストレス発散ができるという効果があります。

 

「お金をかけずに、心身の健康のために何かしたい」という意識へのソリューションとして、ここからさらにランニングは注目されていきます。

ランニングブームの加速は企業と行政の重点テーマだった

マラソン大会の様子

ランニングブームを加速させたのが「東京マラソン」です。

 

リーマンショックが起こる前年の2007年に、第一回目の東京マラソンが開催されました。東京マラソンは市民ランナーの象徴的な目標となりました。

 

東京マラソンを皮切りに、日本全国で都市型のマラソン大会が立ち上がります。

2011年には大阪マラソン、2012年には京都マラソン、2015年には横浜マラソンが、それぞれ約3万人規模のフルマラソンの大会としてスタートします。

 

実際に、私も東京マラソンや横浜マラソンを目指して練習に励んできましたが、都市型の大きなマラソン大会はランナーにとっての大きなモチベーションとなります。都市型のマラソン大会の増加は、間違いなくランニングブームの大きな後押しとなったでしょう。

 

マラソン大会の増加を考える際に見逃せないのが、企業や行政のランニングに関してのマーケティング活動です。

スポーツメーカーが「お金をかけずに、心身の健康のために何かしたい」という健康意識の高まりを見逃すはずはありません。

 

行政も社会保険の支出を抑えるために、国民の健康意識をさらに高め適切な運動へと導かなければなりません。

この両者の思惑は一致し、多くの芸能人や有名な経営者などがランニングをしている様子が、マラソン大会のプロモーションの一環としてメディアに露出するようになりました。

このような企業と行政の動きもあり、ランニングはメジャーなスポーツであるというブランディングが加速したのです。

 

この動きは現在も続いており、最近ナイキのマーケティング部の友人に話を聞いたところ、ナイキがもっとも力を入れている分野はランニングだそうです。

特にこれからランニング人口が伸びるであろう、若い女性向けのブランディングに力を入れているとのことでした。

マラソン大会は「地域活性化」の一助となった

大自然

ランニング人口が増加すると言うことは、ランニングをキッカケに多くの人とお金が動くと言うことです。

この事実はランニングに「地域活性化」の要素を加えることになります。

 

東京マラソンのような都市型のマラソン大会は参加権を得るための倍率が10倍前後になることも珍しくはありません。

選考に漏れたランナーの中には、代わりになる大会を探す方も多いです。

そして、日本の地方都市は過疎化しています。地方経済の発展ために観光業に力を入れる地方行政は多く、施策の1つとして地域の特色を生かしたマラソン大会が開催されるようになりました。

 

私の参加したことがある大会で言うと、新潟県の南魚沼市では「南魚沼グルメマラソン」を開催しています。

この大会ではハーフマラソンをゴールしたランナーに南魚沼産のコシヒカリの食べ放題のサービスと、南魚沼の食材を用いたグルメ村の食事券を提供しています。ゴールした後すぐに、美味しいお米やイクラなどをいただくことができます。

 

このように日本各地で地域の特色を生かしたマラソン大会が増加し、地方に住むランナーにとっても大会に参加しやすい環境が出来上がりました。

そして、地方大会の増加は、ランナーにとってもマラソンと旅行を合わせて楽しめる新たな楽しみ方の形として定着していきました。

 

ランニングブームが一過性のもので終わらずに、現在も続いているのはこういった地方行政との関わりも大きいのではないかと思います。

若者にとってランニングはフェス感覚!?

フェス

ランニングをキッカケに多くの人とお金が動くと言う事実は、「地域活性化」だけでなくランニングの「エンターテイメント性」の増加へも派生をしていきます。

 

「ランニング×エンターテイメント」のイベントとして、2014年にスポーツシューズメーカーのニューバランスジャパン社が「The Color Run」を開催しました。

The Color Run」とは、健康的に楽しむことを目的にしたタイムや順位を競わないランニングイベントです。

走行中にカラーパウダーを浴びながら5キロの距離をランニングします。2012年1月にアメリカ・アリゾナ州で初めて開催され、同年で53都市の60万人以上が参加したそうです。

 

私も2014年の第一回の「The Color Run」に参加をしました。

会場はEDM(electronic dance music)がかかっており、若者向けのフェスのような印象を持ちました。参加者は、「ランニングをしたい」という人よりも「ワイワイ盛り上がりたい」という人が圧倒的に多いようでしたが、こういったイベントをキッカケに、今後はランニングに興味を持つ人も増えていくのではないかと思います。

 

ランニングにエンターテイメント性が加わることは、ランニング人口の裾野を広げると言う意味からもランニングブームを支える動きとなってくるかもしれません。

「フィットネス習慣」が当たり前になる時代の到来

フィットネスウェアの女性

私の見解ですが、今後ランニングブームはより広がり、大きなフィットネスブームになるでしょう。

近年、「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」がベストセラーになりました。

 

読んだことがない方向けに、私が読んで大事だと感じたポイントを下記におまとめします。

 

・医療の発達によって平均寿命は100歳を超える。

・平均寿命の増加に伴い、定年退職した後の余生が40年、50年に増加する。

・余生を過ごすのに必要なお金を現在の年金システムや貯蓄でまかなうのは難しい。

・上記から終身雇用の働き方を見直し、60歳以降も働く必要がある。

60歳以降も働くには、大前提として「健康」でなくてはならない。

・お金だけでなく「健康」も財産の1つとして若いころから考えなくてはならない。

 

上記は、「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」の健康面の話のみを簡単にまとめています。(※書籍では健康面以外の様々な観点からも次世代の生き方への提言がされています。)

「インスタ映え」と言う言葉が流行りましたが、Instagramのアプリ内の検索欄には「フィトネス」と言うカテゴリーが用意されました。

このカテゴリーからは誰もが簡単に世界中の人々のフィットネスに励む様子を見ることができます。

 

平均寿命の増加やインスタなどに代表される、医療や技術の革新はランニングブームよりもさらに大きな「フィトネスブーム」を作り出すでしょう。

 

フィットネスはランニングやヨガ、筋トレ、ストレッチなど様々な分野があります。

さらには、健康のベースとなる食事への理解も不可欠でしょう。

Myrevoの読者のみなさまには、ランニングに限らず、フィットネス全体を楽しみながら、健康的な生活を送っていただければと思います。

この記事を書いた人
倉本 岳
ランニングクラブ代表

MYREVOはパーソナルトレーニングジム、ヨガスタジオ、
ストレッチ、ダイエット、ランニングに関する
プロ集団が著者・監修を担当

パーソナルトレーナー

山本耕一郎

パーソナルトレーナー

斎藤裕香

パーソナルトレーナー

松浦晴輝

パーソナルトレーナー

YOKO

フィジーカー

栗原強太

ストレッチトレーナー

福原 壮顕

ヨガインストラクター

斉藤玲奈

管理栄養士

佐藤樹里

プロランニングコーチ

大角重人

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