「練習をしているのになかなか結果がでない」
「走っていて、前より疲れやすくなった気がする」
ランニングに励む方でこんな風に感じたことがあれば、もしかしたら貧血かもしれません。
ランナーは特に鉄欠乏性貧血になりやすく、食事やサプリメントで鉄を補ってあげる必要があります。
今回の記事では、医師の目線で、貧血とは何か、貧血と持久力の関係、なぜランナーが鉄欠乏性貧血になりやすいのかについてご紹介します。
目次
血液は、赤血球、白血球、血小板という細胞の成分と、血漿と呼ばれる液体成分から成り立っています。
赤血球には「ヘモグロビン」というものが含まれていて、これが血の赤さのもととなっています。
このヘモグロビンは酸素と結びついて、肺で酸素を取り込み、「酸化ヘモグロビン」となって全身に行き渡り、酸素を供給していきます。
貧血になるとこの酸素の巡りが悪くなってしまい、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、頭痛、耳鳴りなど色々な症状が起こります。
男性でヘモグロビンの値がHb13g/dl以下、女性で12g/dl以下になった時に、「貧血」と呼ぶことが多いです。
体の中で、酸素の運搬が行われにくくなることで貧血になってしまうということをご紹介しました。
逆に、ヘモグロビンを増やしてより多くの酸素の運搬をさせることで、持久力向上が期待できます。
例えば、高地で住んでいる人たち。
暮らしている場所の酸素が薄いため、より多くの酸素を運搬するために、体の中でヘモグロビンの量が増えたり、ヘモグロビンと酸素の結びつきが強くなります。
こうした状態を意図的に起こすのが、最近流行の低酸素トレーニングです。
ヘモグロビンを増やすことで酸素がしっかりと末梢まで行き渡るため、持久力がつくとされています。
また最近、高校駅伝の選手に鉄剤を静注してドーピングしていたというニュースがありましたが、これもヘモグロビンを増やすためでした。
ただ、静脈注射を行うと鉄が過剰に蓄積し肝機能障害を起こしたり、多血症で血がドロドロしてしまって血管が詰まったりといった可能性があります。
貧血を引き起こす疾患はたくさんありますが、最も多いのが鉄不足による鉄欠乏性貧血です。
ヘモグロビンは、鉄を含む「ヘム」と、「グロビン」というタンパク質が結合したものなのですが、鉄が不足するとヘモグロビンが作られなくなり、貧血になることが多いです。
ランナーは鉄欠乏性貧血になりやすいと言われています。理由としては下記のようなものが挙げられます。
・トレーニングによる筋肉内での鉄需要の増加
・発汗による鉄の喪失
・足底部にかかる強い衝撃による赤血球の破壊
・壊れた赤血球から漏れ出たヘモグロビンが尿から排出されてしまう
また、女性は生理による出血で鉄が失われたり、過度なダイエットのために鉄の摂取が不足しがちなので、女性ランナーは特に注意が必要です。
貧血の人は実はとても多く、気付かずに日常生活を送っている場合も多いです。
ただ、ゆっくり貧血が進むと、その状態に慣れているので、不調に気付かないこともあります。
鉄欠乏性貧血の有無は血液検査で調べることができます。
赤血球の濃さを表しています。男性がHb 13g/dl未満、女性が12g/dl未満で貧血と判定します。
鉄欠乏性貧血では一つ一つの赤血球の大きさが小さくなるのが特徴です。多くは60-70flまで低下し、小球性低色素性貧血と言われます。
フェリチンというのは「貯蔵鉄」と言われ、鉄分が減ってくると使われる貯金のようなものです。
ヘモグロビンをある程度保たれていても、フェリチンが少ないだけでも貧血の症状が出ることもありえます。
フェリチンの値については諸説ありますが40ng/ml未満であれば潜在性の鉄欠乏があると判断します。できれば80±20ng/ml前後あるのが望ましいです。
正常人の場合はトランスフェリンの約20%が鉄と結合し、残りは未結合の形で存在します。
血清中のすべてのトランスフェリンと結合できる鉄の総量を総鉄結合能(TIBC)といいます。
鉄を運搬するトランスフェリンのうちどれくらい鉄が存在しているかを表す割合がトランスフェリン飽和度で、血清鉄/TIBC(総鉄結合能)×100で計算できます。
通常20%以下で鉄欠乏を疑います。
自分で貧血かな?と思ったら病院で検査をすることをお勧めします。
鉄は、基本は食事からしっかりと摂取するのが望ましいです。
鉄分には、ヘム鉄と非ヘム鉄があります、全体的に鉄は吸収率の悪いミネラルですが、ヘム鉄は比較的吸収率が高く10〜20%、非ヘム鉄は吸収率が2〜5%小腸から吸収されます。
ヘム鉄は、レバー、赤身の肉、赤身の魚(マグロなど)、貝などの動物性の食品に、非ヘム鉄は、ホウレンソウや小松菜などの緑黄色野菜、ひじきなどの海藻類、大豆製品などの植物性の食品に多く含まれます。
アスリートは鶏肉を食べることが多いと思うのですが、鶏肉には鉄分が少なく、牛肉(赤身肉)・まぐろなどヘム鉄がしっかり含まれた赤色のお肉を食べるのがおすすめです。
それでも不足する場合にはサプリメントで補いましょう。
ビタミンCやタンパク質はヘム鉄・非ヘム鉄の吸収を高めます。
鉄の吸収率を高めるために同時に摂取しましょう。
逆にコーヒーや緑茶、紅茶などに含まれるタンニンや玄米やライ麦などフィチン酸は、鉄の吸収を妨げるので、食事と時間をずらして摂取するのが良いでしょう。
またビタミンB12と葉酸は、正常な赤血球を作るために必要な栄養素です。
鉄を取るときは鉄の吸収や赤血球の生成を高めるビタミンと一緒にとりましょう。
サプリメントにも肉類由来のヘム鉄と植物由来の非ヘム鉄があります。
パッケージに記載があるものが多いので、ヘム鉄のものを選ぶようにしましょう。
また鉄分の過剰摂取により、悪心、嘔吐、便秘、下痢、暗色便、または腹部不快感などの消化器系の副作用を生じることがあります。
できれば、定期的に血液検査をしてヘモグロビンや鉄、フェリチンの値を見ながら量を調整するのが良いでしょう。
鉄を補っても改善しないアスリートの貧血に亜鉛欠乏による貧血が隠れていることがあります。
亜鉛は体内のタンパク質を作るのに欠かせないミネラルで、亜鉛が欠乏するとタンパク合成の盛んな細胞・臓器で障害が生じやすいのです。
症状としては、貧血の他に味覚障害、皮膚炎、口内炎、脱毛症、難治性の褥瘡(じょくそう、床ずれ)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、不妊症、易感染性などがあります。
日本人は潜在的な亜鉛欠乏状態である割合が高く、10~30%が亜鉛欠乏状態にあると報告されています。
また鉄と同じく、アスリートでは亜鉛の消耗が多く、汗とともに失われやすいのです。
鉄を補ってもなかなか貧血が改善されない場合、亜鉛の値も調べてみると良いでしょう。
きちんとした練習をしているのに成果に結びつかない、同じペースのはずなのになんだか疲れやすい。
ランナーの方でこんな風に感じる方は、もしかしたら鉄欠乏性貧血かもしれません。
ランナーの方は特に鉄欠乏性貧血になりやすいので、自分で貧血かな?と思ったら病院で検査をすることをお勧めします。
以上、ランナーが陥りがちな鉄欠乏性貧血の基礎知識でした!