物を握るときなどに必要になる握力を強化する際に、どのようなトレーニング法や筋トレを取り入れれば効果があるのかわからないと悩む方は少なくありません。
握力はスポーツはもちろんのこと、日常生活のさまざまな動作の中でも必要とする力です。そこで今回は握力に関する基本や握力強化に役立つ自重トレーニング、筋トレ法などをご紹介します。
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フィジーカー 栗原強太
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湘南オープンメンズフィジーク172cm以下の部で5位入賞したフィジーカー。体脂肪率は1桁。複数のジムを掛け持ちして日々トレーニングに励む。 |
目次
握力は主に物を握る力のことを指します。学生時代に体力テストなどで握力測定を行ったことがある方も多いと思いますが、握力に関する詳しい知識などを有している方は少ないのではないでしょうか。
まずは握力強化を効率的に行うために握力の測定方法、高めるために必要な筋肉、低下する原因の3つの角度から握力の基本を学んでみましょう。
握力の測定方法は一般的にスメドレー式握力計が用いられます。スメドレー式握力計にはアナログ式とデジタル式の2種類があります。
現在はデジタル式の握力計が主流とされており、0.1㎏単位で握力を測定することが可能です。一方のアナログ式の握力計はグリップを握ると針が動く仕組みとなっています。スメドレー式握力計での正しい測定方法は以下のとおりです。
※握力計が体や衣類についてしまった場合は測定不可。
なお文部科学省が公開している「新体力テスト実施要項」によると、握力テストは左右交互に2回、キログラム単位で測定することになっています。(※1)
握力を使うのに必要な筋肉は一言で説明すると、前腕の筋肉となります。前腕の筋肉は前腕筋と呼ばれており、ここから複数の筋肉に細分化することができます。以下に握力を使うときに必要な各筋肉や役割などをまとめましたのでご覧ください。
筋肉の名称 | 位置 | 主な役割 |
浅指屈筋 | 前腕上部(手の甲と同じ向きにある位置) |
親指以外の指を屈曲させる。
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深指屈筋 | 前腕部の手の平側 |
浅指屈筋とともに手関節を屈曲させる。
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長母指屈筋 | 浅指屈筋の深層で、橈骨(とうこつ)の前面 | 親指の屈曲。 |
腕橈骨筋 | 前腕前面の親指側 |
肘関節の屈曲に関与。
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回外筋 | 前腕部の後面外側 | 前腕部の回転。 |
方形回内筋 | 前腕部の手首側 |
主に肘先を内側に捻るのに必要。
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円回内筋 | 前腕部の内側 |
前腕の回内、肘関節の屈曲。
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橈側手根屈筋 | 手のひら側の前腕表層 |
手関節の屈曲、手首を親指側に曲げる。
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長掌筋 | 前腕前面の浅層 |
手関節の屈曲、手首を手のひら側に曲げる、肘関節の屈曲。
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尺側手根屈筋 | 前腕前面の小指側 |
手関節の屈曲、手首を小指側に曲げる。
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以上が握力に必要な筋肉となります。これらの筋肉は日常生活の中でも「ペットボトルなどのフタを開ける」「買い物袋を持つ」「雑巾やタオルを絞る」といった動作の中で使われています。
握力強化には、上記の細かな筋肉をバランス良く鍛えるのが効率的とされていますが、すべての筋肉の名称や役割を覚えるのは大変です。そのため、握力を鍛えるときには、「主に手首から肘付近の筋肉を鍛える」という意識でトレーニングに取り組むとよいでしょう。
握力が低下する原因の中で最も多いのは、やはり加齢です。年齢を重ねると男性、女性関係なく筋力の低下や衰えが全体的に進行します。もちろん握力に必要な筋肉である前腕筋も例外ではないため、年齢を重ねるごとに握力が低下するようになります。
文部科学省の握力テストに関する資料によると、男性は30歳~34歳、女性は45歳~49歳をピークにして握力が低下することがわかっています。そのため、これらの年齢に差しかかるあたりに握力の低下を感じた場合は、加齢が原因の可能性が高いでしょう。
ただし、握力低下は加齢だけではなく、鎖骨のゆがみや筋肉の疲労なども関係しています。さらに握力低下の恐ろしいところは、病気が原因になっている可能性もあるということです。
医師などの専門家によると、握力の低下は胸郭出口症候群、頸椎椎間板ヘルニア、腕神経叢腫瘍といった病気により引き起こされることもあるといいます。
そのため、握力の低下を単なる加齢で片付けてしまうと、健康を損ねる可能性もあるため、明らかに異常を感じた場合は医療機関で診察を受けるなどの対策も必要です。
どうせ握力を鍛えるなら、世界のトップがどれくらいの数値を記録しているのか知っておきたいという方もいます。そのような方に向けて、ここでは握力にまつわる数値をさまざまな視点、角度から解説します。
握力の世界№1といったらスウェーデン出身のマグナス・サミュエルソンが有名です。彼は1998年に開催された世界最強の男を決める「ワールドストロンゲストマン」で優勝など、各国の怪力コンテストでタイトルを総なめにした人物として知られています。
現在の世界記録はこのマグナス・サミュエルソンが叩き出した192㎏とされています。マグナス・サミュエルソンは身長201㎝、体重156㎏の恵まれた体格で、握力以外の競技では欧州の腕相撲王者、ベンチプレス300㎏などの記録も残っています。
テレビなどのメディアで怪力自慢の方たちがりんごを潰す企画などを行っていることがあります。人によっては「自分ももしかしたら潰せるのでは?」という方もいるでしょうが、実際にりんごを潰すためにはどれくらいの握力が必要になるのでしょうか?
これは正確な数値というのは断言できませんが、一般的には70㎏~80㎏の握力が必要になるといわれています。ちなみに日本人の成人男性の握力平均値は45㎏~50㎏(女性は約30㎏)ほどであるため、まったくトレーニングをしていない方がりんごを潰すのは非常に難しいです。
ただしりんごは指の腹を使って押しつぶすイメージを意識するなど、コツさえつかめば60㎏台の握力でも潰せる可能性があります。りんごを潰してみたいという方は、握力のトレーニングとりんごの潰し方のコツを学ぶようにしましょう。
ここでは年齢別の握力平均値をご紹介します。まずは以下の表をご覧ください。(※2)
年齢 | 【男性】平均値 | 【女性】平均値 |
20歳~24歳 | 46.38㎏ | 28.16㎏ |
25歳~29歳 | 47.03㎏ | 28.38㎏ |
30歳~34歳 | 47.50㎏ | 28.77㎏ |
35歳~39歳 | 47.31㎏ | 29.17㎏ |
40歳~44歳 | 46.95㎏ | 29.24㎏ |
45歳~49歳 | 46.70㎏ | 29.09㎏ |
50歳~54歳 | 45.79㎏ | 28.29㎏ |
55歳~59歳 | 44.93㎏ | 27.61㎏ |
60歳~64歳 | 43.17㎏ | 26.56㎏ |
65歳~69歳 | 40.19㎏ | 25.28㎏ |
70歳~74歳 | 38.06㎏ | 23.86㎏ |
75歳~79歳 | 35.74㎏ | 22.78㎏ |
握力に関しては男性と女性では平均値が約15㎏~20㎏ほど異なります。もちろん筋肉が発達している男性のほうが平均値は高くなっていますが、注目すべき点は握力が低下する年齢です。
先ほどもご紹介しましたが、男性は30歳~34歳をピークにして握力に衰えがみられてきますが、女性は40代前半までは握力が強化されており、40代後半になってから徐々に握力低下が進むようになっています。
また加齢に伴って男女の握力差が縮まっているのも特徴です。上の表をご覧になってもわかるように、握力は30代から40代がピークとなっており、その他の運動能力や身体機能と比較すると、長期に渡って高い数値を維持しやすい力ともいえるでしょう。
ここからは実際に握力を鍛える方法をご紹介します。まずはトレーニング器具を使わずに、手軽に取り入れることができる握力トレーニングを6つまとめましたのでご覧ください。
ウォーターグリップとはお風呂の中で握力を鍛える方法であり、毎日お風呂に入る習慣を利用したトレーニングです。ウォーターグリップのやり方、手順は以下のとおりです。
ウォーターグリップのやり方は非常に簡単で、湯船の中に沈めた手を開閉するだけです。最初は握力にも余裕がありますが、100回、200回と回数を重ねていくと負荷がかかるため、握力強化につなげることができます。
基本的にお風呂は1日1回は入りますので、ムリなく継続できるトレーニングのひとつといえるでしょう。
手をひたすらグーパーするだけのグーパートレーニングも簡単に取り入れられる握力強化法です。
簡単かつ器具を使わないトレーニング法でもありますから、学生の部活動などでもよく利用されています。グーパートレーニングは握力の中でも主にクラッシュ力(物を握りつぶす力)を養うことが可能です。
<参考動画 グーパートレーニングのやり方>
MYREVOフィジーカーの栗原強太が、前腕筋群の筋トレ種目であるグーパートレーニングのやり方を解説します。
グーパートレーニングを行うときは肩が上がらないように意識しておきましょう。肩が上がった状態になると、握力強化に必要な前腕筋に負荷がかかりにくくなります。
ちなみにこのグーパー法ですが、ケガを予防するストレッチとしても活用されています。グーパーストレッチは指の関節をゆっくりと折りたたむようにして握り、その後大きく開くストレッチ法(10回ほど繰り返すのが理想)です。
浅指屈筋を適度にほぐすことができますので、筋トレ前などに実施することをおすすめします。
タオル絞りは日常生活の中で床掃除などのときに行っている方も多いのではないでしょうか。このトレーニング法も毎日の習慣を利用したものですので、主婦の方でも簡単に取り入れることができます。
タオル絞りを行うときは前腕筋に効率的に負荷がかかるように、常に腕を伸ばした状態を意識しておきましょう。
腕立て伏せの握力強化バージョンともいえるのが指立て伏せです。指立て伏せは握力強化だけではなく、大胸筋や前腕などにも効果があるため、筋トレ好きの方にも支持されています。文字通り指だけを床につけて腕立て伏せを行うイメージで取り組んでいきましょう。
<参考動画 「指立て伏せ」のやり方>
MYREVOフィジーカーの栗原強太が、前腕筋群の筋トレ種目である指立て伏せのやり方を解説します。
指立て伏せは通常の腕立て伏せよりも指に負担がかかりやすいため、筋トレ初心者の方などは慣れるまでの間、膝をついて実践することをおすすめします。
膝をついても負担が重いと感じた場合は、壁から少し離れた位置に立ち、腕を伸ばした状態で指を壁につける方法もあります。指立て伏せは過度に負担をかけてしまうと、前腕筋を傷つけてしまうこともあるため、徐々に負荷をかける強さを上げていくことを意識しておきましょう。
簡単、かつ安全にできる握力強化法のひとつでもあるぶら下がり。このトレーニングは身近にぶら下がれる場所があれば誰でも行うことができます。
正しいぶら下がりトレーニングを実践することで、物を握ったままそれを長時間保持する力(ホールド力)を身に付けることが可能です。タンスの縁などを利用して、ぶら下がりトレーニングのやり方を習得していきましょう。
指をかけて体重を掛けていく。
指が滑るか滑らないかのギリギリの範囲で限界までキープする。
筋力の限界がきたら指を離す。
上記動作を計3セットを目安に行う(インターバルは30秒間)。
ぶら下がりトレーニングの主なコツは、指の第一関節でしっかりと引っ掛けることや背筋を伸ばしておくことです。特に背筋が曲がった状態でトレーニングを行ってしまうと、筋肉の傷みにつながることもありますので注意しておきましょう。
懸垂は公園や学校などにある鉄棒を利用すれば、簡単に取り入れられる握力強化法のひとつです。
懸垂のメリットは物を握りつぶす力と握った物を保持する力の両方を鍛えられることです。筋トレでは王道の方法でもありますので、上半身強化を目指す方はトレーニングに取り入れてみましょう。
懸垂を行うときの注意点ですが、体を戻すときはゆっくりとした動作で行うようにしてください。大抵の人は体を引く動作で満足してしまい、戻すときの動作がおろそかになる傾向にあります。
しかし、体を元に戻す動作は体を引く動作と同じような負荷がかかりますので、勢いよく下してしまうと筋肉を傷めてしまう可能性もあります。
また体を持ち上げるときは広背筋へ効率的な負荷をかけるために、肩をすくめないことを意識しておきましょう。この他、懸垂は順手では鍛えられない筋肉もありますので、逆手懸垂も取り入れることを忘れないでください。
握力は腕力や脚力などよりもマニアックな部位を鍛える必要があるため、導入するトレーニング器具で悩む方も少なくありません。ここでは握力を効率的に強化できるトレーニング器具、それらを使ったトレーニング法などを解説します。
握力強化に効果がある器具のひとつがボールです。特に握力を鍛えるときに使われるボールのひとつにパワーボールというものがあります。パワーボールは内臓されたローターが回転する仕組みで、遠心力を利用したトレーニングアイテムです。
パワーボールの回転数が上昇すればするほど遠心力が増し、その力を抑えようとすることで握力や手首の筋肉を鍛えることができます。パワーボールを使ったトレーニング方法は以下のとおりです。
パワーボールには紐を使って回転させるコードスタートタイプと、紐が付いていないオートスタートタイプの2種類があります。
初めてパワーボールを使う方は回し方などで苦労することが多いですが、中のコマの動きに合わせることを意識すると、効率的な負荷をかけやすくなります。
握力強化の代表的なトレーニング器具がハンドグリップです。ハンドグリップは主にクラッシュ力を鍛えるのに有効なトレーニング器具とされており、アームレスリングの選手なども積極的に導入しています。
現在は100均でもハンドグリップを購入できますので、お金をかけたくない方にもおすすめです。
ハンドグリップには負荷の調節が可能な可変式のものもありますので、自身の成長に合わせて握力を鍛えることも可能です。初心者の方はグリップが柔らかく、手のひらを痛めにくいノーマルタイプがおすすめです。
ダンベルを用いた握力強化は本格的なトレーニングを行うことが可能です。器具を利用しないトレーニング法よりも高い負荷をかけることができますので、効率的な握力強化を目指す方には適しています。
ただし、手首への負担は大きくなりますので、初心者の方は別のトレーニング法で握力を強化してから行うことをおすすめします。ダンベルを使って握力を強化する場合は、リストカールと呼ばれるトレーニング法が一般的です。
※逆手も同様の手順で行う
<参考動画 「リストカール」のやり方>
MYREVOフィジーカーの栗原強太が、前腕筋群の筋トレ種目であるリストカールのやり方を解説します。
リストカールを行うときは、ダンベルを巻き上げるようにして手首を上げると効率的な負荷をかけることができます。
また、リストカールはダンベルを内側に上げるトレーニングですが、外側に広げるリバースリストカールと呼ばれるトレーニング法もあります。リストカールに慣れてきたら、取り入れてみましょう。
スポーツ選手が使用していることが多いリストバンドも上手に活用することで、握力強化につなげることが可能です。リストバンドは1個の価格も100円ほどで購入できますので、コスパ重視の方にも適しています。
ただし、リストバンドで握力を鍛えるにはゴム製のタイプが必要になるため、購入時には注意しておきましょう。リストバンドを活用した握力強化法は以下のとおりです。
リストバンドを使って握力を強化するときは、肩の力を抜いて行うことなどを意識しておきましょう。
また、広げるときはゆっくり、閉じるときは素早くというのも大切なポイントです。女性の場合はリストバンドを揃えられないときは、髪留め用のゴムを束ねて代用することも可能です。
今回は握力に関する基本情報や握力強化に効果的な筋トレ法などを解説しました。握力は腕力、腹筋、胸筋などメジャーな筋肉と比較すると、若干マニアックな筋肉とされる筋肉を鍛える必要があります。
そのため、握力強化に役立つトレーニング法や筋トレを知らないという方も少なくありません。握力強化は日常生活で手軽にできる自重トレーニング以外にもハンドグリップやダンベルを使った筋トレ法などが存在します。
初心者の方は過度な負荷をかけると、筋肉の損傷につながる可能性が高いですので、最初は器具なしのトレーニングを行っていき、徐々に器具ありの強い負荷をかけられる筋トレなどを取り入れていくようにしましょう。現在、握力強化に関する悩みを抱えている方はぜひ参考にしてください。