ランニングやマラソンの正しいフォームや走り方を身につけることは、怪我を防ぐことや疲れを溜めないためにとても重要です。
そこでこの記事では、正しいフォームや走り方をお伝えします。
姿勢や腕の振り方、着地方法、足の運び方、坂道や風、脇腹通への対応に至るまで、ランニングのフォーム・走り方の疑問に余すところなく答えていきます。
フォーム・走り方のバイブルとしてお使いください。
なお、この記事の内容は、元早稲田大の箱根駅伝ランナーの大角重人コーチ、2017年大阪マラソン優勝の木下裕美子選手にインタビューしたものを編集したものです。
お話を伺った方 大角重人
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プロランニングコーチ。早稲田大学理工学部卒。 大学時代はマネージャー兼選手として箱根駅伝(6区)に出場、スターツ陸上部コーチ、SWACヘッドコーチを経てプロランニングコーチ。 <主な実績> 2001年 箱根駅伝 第6区出場 <ベストタイム>フルマラソン:2時間43分45秒 |
お話を伺った方 木下裕美子
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マラソンランナー・ランニングコーチ。シスメックス陸上部、SWAC選手を経てマラソンランナー、ランニングコーチとして活動。 <主な実績> 2017年大阪マラソン優勝 <ベストタイム> フルマラソン:2時間34分38秒 |
目次
ランニング・マラソンの正しいフォームとは「力みのない」フォームです。
頑張って走ろう!という気持ちは大切ですが、それが力みとなってしまうと、余計な体力を消耗してしまいます。例えば、よくある間違いが次の2つ。
もちろん、足や腕を動かす意識は大切です。
しかし、ふくらはぎを使い地面を蹴っていたり、肘を大きく動かして腕を振っていると、力んだフォームになっています。
力みのないフォームとは、足を動かすには「股関節」、腕を振るには「肩関節」を使い、足と腕はリラックスしている状態です。
このときポイントとなるのが、上半身と下半身の動きの連動性です。上半身と下半身の動きが連動していないと、腕は腕だけ、足は足だけで頑張ってしまいます。
そこで次の章からは、上半身と下半身の動きを連動させて、力みのないフォームを身につけるための具体的な方法をご紹介します。
良い姿勢を保ち、股関節と肩関節を動かすことで、体が自然と前に進んでいくフォーム。
胸椎(きょうつい)をスムーズに回旋(※)できる姿勢が、マラソン・ランニングフォームの正しい姿勢です。(※胸椎の回旋=胸椎を軸にくるくる回る動きのこと。)
胸椎の回旋に連動して、自然と腕が振れ、骨盤が動き、前に走る推進力が生まれます。いわば、テコの原理を活かしたような走り方です。
胸椎(きょうつい)とは、背骨の胸の部分のことをさし、下記画像のオレンジ色の部分。
走るときは、骨盤を前に向け、胸椎を伸ばし、肩から先の力を抜いた姿勢をとりましょう。
また、肩周りの筋肉が固まっていると、肩こりや猫背になり胸椎の回旋がスムーズにはできません。ランナーは、肩こりや猫背はしっかりケアしておきましょう。
マラソンやランニングのフォームで「腕を振る」ことが大切だと聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
もちろん、腕を振ることは大事ですが、手首や二の腕に力が入ってしまう振り方はNGです。
力まないための腕振りのコツは、末端に力を入れないことです。胸椎を旋回させて、できるだけ体の中心に近い部分を動かしましょう。
中心部が動けば、テコの原理で末端は自然と動きます。
腕の振り方は、肩関節を中心に動かして、それ以外の部分はリラックスさせることを意識してください。
長い距離を走ると体幹の筋肉が疲労して、肩が上がる、腰が反る、などフォームが崩れてきます。
フォームを崩さないためには、上半身や肩周りの力を抜いて走ることが大切です。
肩の力を抜くためにはランニング中に「腕を回す」「肩を耳に近づけ離す」などの、リラックス運動を取り入れましょう。
足の運び方で重要になるのが、着地の方法です。
着地の方法は、足裏のどの部分から着地をするかで「つま先着地(フォアフット)」「かかと着地」「フラット着地」の3種類にわかれます。
つま先着地は、足裏の前方で着地をする足の運び方です。フォアフット走法とも呼ばれます。
フルマラソンの日本記録を更新した大迫傑選手や、NIKEベイパーフライ4.0というシューズが取り入れていることで話題となった着地方法です。
海外の一流ランナーには「つま先着地(フォアフット)」の選手が多く、マラソンのタイムをよくしようと、「つま先着地(フォアフット)」に挑戦する市民ランナーも多いです。
しかし、「つま先着地(フォアフット)」に適した骨格を有していたり、適した身体作りをしていない限り、着地の際にふくらはぎや太ももに負担が集中し、怪我をするリスクが高まります。
市民ランナーが「つま先着地(フォアフット)」を取り入れるのは避けた方が良いでしょう。
「かかと着地」は、足裏の後方で着地をする足の運び方です。ヒールストライク走法とも呼ばれます。
骨格の作りから、日本人は「かかと着地」のランナーが多く、日本人にとって無理なく走ることのできる着地法と言えるでしょう。
いっぽうで、「かかと着地」はブレーキがかかり、ランニングのペースを上げづらいとも言われます。
だからといって「かかと着地」の方が無理に着地方法を変えるのは避けましょう。多くの日本人にとって、自然な着地が「かかと着地」です。無理な着地方法の変更は怪我につながってしまいます。
「フラット着地」は、足裏全体で着地をする足の運び方です。ミッドフット走法とも呼ばれます。
「フラット着地」の特徴は、足裏全体で着地の衝撃の吸収ができることや、お尻の真下に足を着くことで、重心を地面に対して垂直にかけることができることなどです。
これらの特徴から、「フラット着地」は膝や足首への負担の少ない着地が可能だと言われています。
市民ランナーはこの「フラット着地」を目指すと良いでしょう。
ただし、「フラット着地」をオススメはしますが、着地を意識しすぎると、膝や足首を使いすぎて疲労をためてしまうことや、足首や膝の怪我を招く恐れもあります。
そのため着地方法は、次の章を読んだ上で、慎重に選んでください。
着地方法の選び方は「この着地方法で走る」と決めてフォームを作るのではなく、そのときの体の状態に適した自然と行っている着地を大切にすべきです。
つまり、おすすめは「結果論」で選ぶことです。
着地方法の練習をするよりも、マラソンのフォームに重要な、お尻の筋肉や、股関節の柔軟性を高めることに力を注ぎましょう。
着地のフォームは後からついてきます。
ランニング・マラソンの正しいフォームを身につける上で、筋トレは欠かせない要素です。
特に、お尻の筋肉、股関節、足底を鍛えることが正しいフォームを身につける上で大切です。
お尻の筋肉が弱いと、着地の衝撃を腿の筋肉などで受け止めることになり、軸足の膝が曲がり、身体が沈み込んでしまいます。
そうなると、地面からの反発をうまく推進力に変えることができません。お尻の筋肉はランナーにとって、とても重要な筋肉なのです。
また、ランニングによる「膝痛」も、お尻の筋肉の弱さが原因の1つです。
お尻の筋肉を鍛えることで「腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)炎」や「鵞足(がそく)炎」などの怪我のリスクを下げることができます。
股関節周りの筋力や柔軟性は、足を開く際にとても重要です。
股関節が硬い方は、股関節の可動域が狭く、アップダウンのあるコースなどで歩幅やフォームの調整が難しくなってしまいます。
股関節周りの筋力と柔軟性を高めておきましょう。
足底を鍛えておけば、様々なコースに対応できるようになります。
例えば、坂道、横浜マラソンの高速道路に代表されるような傾いたコース、クロスカントリーのコースなどです。
足場の悪いコースを走る際は様々な部位の筋力が必要になるため、足底を鍛えて対応力を高めておきましょう。
マラソンやランニングに重要な、お尻の筋肉や股関節、足底ですが、残念ながら日常生活ではあまり使われません。
そのためこれらの部位をトレーニングにより鍛えることが大切です。そこで、それぞれの部位に対しておすすめの筋トレメニューをご紹介します。
ポイントはお尻の筋肉だけに刺激を入れるために、上半身を手で支えて固定することです。
これ以外にもお尻の筋トレ方法はたくさんありますが、お尻以外の筋肉にも刺激が入りやすいメニューでは本来の目的を果たせなくなってしまいます。
例えば、ジムでスクワットする際に重りを用いると、腰や太ももなどに刺激が入る可能性があります。 他の筋トレメニューを行う場合は、できるだけお尻のみを刺激できるメニューを選ぶようにしましょう。
この動きを右左それぞれで、2セットずつ行います。このトレーニングを通じて、股関節の柔軟性と、足を引き上げる際の筋力を鍛えましょう。
足底(足の裏)を鍛えるには、足の指を使う練習をします。
普段意識する機会の少ない足の指ですが、着地の際に無意識に指が曲がる人や、力んでしまう人も少なくありません。
そうなると、足の裏の筋肉が硬くなったり、土踏まずを使えない走り方になってしまいます。
足の指が地面につくように、上記で紹介した2つの足底のトレーニングを行いましょう。
ここでは、上り坂と下り坂のフォームをそれぞれご紹介します。
坂道では基本のフォームをベースに、姿勢や腕の振りを少し工夫していきます。それでは、上り坂、下り坂の順にご紹介します。
上り坂では姿勢と、腕の振り方を工夫します。
物理学の話になりますが、上り坂では体が地面に対して垂直になりやすいため、重力の影響で体が後方に引かれてしまいます。そのため、体を前傾姿勢にして重心を前方に寄せましょう。
また、腕の振り方はコンパクトにすることを心がけます。上り坂で腕を大きく振ってしまうと、肘を後ろに引く際に重心が後ろにかかるため、体が後方に引かれてしまうためです。
姿勢と腕の振り方以外は、歩幅はいつもより気持ち狭め、ペースは上り坂でペースが落ちるのは当たり前なので落として構いません。
下り坂で気をつけるべきは膝へのダメージです。膝へのダメージを軽減するために、姿勢と着地に気をつけます。
下り坂では、どうしても加速してしまうため、体は無意識にブレーキをかけようと姿勢を後ろに反らせてしまいます。姿勢が反った状態では、太ももなどの体前側の筋肉が力を吸収してしまい、膝へのダメージが溜まります。
そのため、下り坂では地面に対して体が垂直になるように、体を少し前傾させて走ると、膝へのダメージを軽減することができます。
また、下り坂ではスピードが出るため歩幅を狭めて、体の真下に着地することで、膝へのダメージを軽減することができます。
ペースについては、下り坂でスピードが出るのは当たり前なので、加速しても構いません。
風がある場合のフォームをお伝えします。
向かい風、追い風、そして横殴りの風。
それぞれに対して、最低なフォームを知って、どんな状況でも正しいフォームで走れるようになりましょう。
向かい風のフォームと上り坂のフォームは同じです。前傾姿勢になり、腕の振りをコンパクトにしましょう。
向かい風では前に進もうとしても、風により体が後ろに押されて力が上に逃げてしまいます。そのため、体を前傾させることが大切です。
またペースに関しても、ペースが向かい風の時に落ちるのは当たり前なので落として構いません。
追い風のときは、風に背中からサポートされる形になります。
体が倒れるほどの強風を受けることはほぼないと思いますので、追い風の時は下り坂とは違い、姿勢を反らす必要はありません。
大事なことはリラックスをすること。筋力を消耗せずに、ペースを維持する意識で走りましょう。
川辺や海辺を走る際は、横殴りの風を受けることがあります。
横殴りの風を受けた場合は、少しだけ肩をひねり、背中だけを風が来る方に傾けましょう。
ただし、肩をひねることで筋肉の疲労もたまるため無理に行う必要はありません。横殴りの風が強く、走りにくいときにのみ試してみてください。
ランニングの最中に、脇腹痛になったことがある方は多いのではないでしょうか。
タイムを目指すマラソン大会の最中に脇腹痛が起きたときは、ヒヤヒヤしますよね。
脇腹痛は原因を1つに決めるのは難しいですが、次のような原因が考えられます。
万が一、脇腹痛になった場合はそれまでのフォーム・走り方を一旦崩し、脇腹を圧迫するようにしましょう。
例えば、左脇腹が痛ければ、左腕で押しながら走ります。
また、パンツの紐を締め直し、圧をかけるのも効果的です。
脇腹痛のときは、腹部を圧迫して、痛みが引くまでペースを下げます。痛みが引いたら元のペースに戻しましょう。
最初にお伝えした通り、正しいフォーム・走り方は「力みのない」フォームです。
ここまで、ランニング・マラソンのフォームや走り方について、姿勢・着地・足の運び方・坂道・風・脇腹痛をご紹介しましたが、いずれの場合も力まないことを念頭に置いて取り組んでみてください。
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