私がボルダリングジムでスタッフをしていた頃によく言われたセリフの一つが「フィットネス通って体鍛えてからまた登りたい」です。
残念ながら実際に鍛えて帰ってきた人には会った事が無いのでただの社交辞令だったのかもしれませんが。。。。
さておき、鍛えた体の方が登りやすいのは確かです。ホールドを掴むには握力を使いますし、懸垂をするような身体を持ち上げる力もあればボルダリングにとても役立ちます。
この記事では、ボルダリングにおける筋トレの役割や考え方、初心者の方が行なうと良い筋トレメニューについて、解説をします。
太田 裕樹 | |
ヒローズアップ!クライミングクラブのコーチ。ボルダリングの全日本大会である、ジャパンカップにも複数回の出場経験を持つ。 |
目次
具体的な筋トレの話に入っていく前に、まずは意識してほしいことや考え方についてご説明します。
全ての種目に共通して言える事ですが、筋トレ時に意識して欲しいのが「フォーム」です。
こう言われると「あっ自分には無理だ…」と条件反射で離れていってしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、ちょっと待ってください!
そんなに難しい話ではなく、ここでお伝えしたいのは「考え方」です。「10回何としてもやるぞ!」と回数を意識するのではなく、「上手いフォームで1回やるぞ!」と意識してほしいです。筋トレにも上手い・下手があります。がむしゃらに回数を重ねるのではなく、上手にやれる回数を増やしていけるようにしましょう。
がむしゃらに頑張る事が悪だ!と言い切るつもりはありません。回数を目指した方が続けられるようでしたらその方法で頑張って欲しいです。
大切な事は継続する事。「1回でも良いから良いフォームで」の方が頑張れそうな人はこの方法で。「1日10回!」の方が頑張れそうな人はこの方法でまずは続けてみてください。
頑張り方が決まったら、次はやるタイミングを決めましょう。そうしてルールづくりを進めておくと継続しやすいです。例えば家に帰ったら荷物を置いて着替えてすぐにやる、とかルーティーンを決めておく事で疲れていてやる気が出ないような日にも迷わず実施しやすくなります。
そうは言っても人の脳は筋トレをしてわざわざ疲れる事を好んでするようにはできていません。そういう時は、まずは脳のスイッチづくりを進めましょう。
やる事は簡単。1日1回「腕立て伏せするぞ!」という気持ちで床に寝そべるんです。
実際にやらなくてもOKです。どうです、これならできそうじゃないですか?そうやって筋トレする姿勢に入る事を習慣づければ後はやるだけ。せっかく床に寝そべったんだから1回ぐらいやっとこうかな、なんて思う日も近いです。人は疲れることを避けるように出来ています。仕事でメンタル削られてくたくたになって帰ってきた後に筋トレをするのは難しいです。
自分も最初はなかなか続ける事が出来ませんでした。そういう時は逆に人間の脳の仕組みを利用して考える余地をなくしてあげたり、せっかく筋トレする服に着替えたんだから(サンクコスト)とか自分を上手く誘導してあげる事がポイントです。
続いては、具体的な話をしていこうと思います。
やはり登る動作なので懸垂は重要です。何か一つだけトレーニングするとしたら?と言われたら私は「懸垂」を挙げます。
懸垂をする時は限界まで体を上げるのはもちろんですが、下ろす時に最後伸び切るまで力を抜かないようにすると効果的です。懸垂1回も出来ない!という人は斜め懸垂でもいいですし、最初はただぶら下がるだけでもOKです。
じゃあ懸垂しよう、と思っても「懸垂ってどこでやれば良いの?」って疑問がありますよね。僕みたいにハマってすぐに公園行って夜な夜な懸垂したりとかは出来ないと思うので、一番簡単なのは、クライミングジムに行った時に最後に懸垂だけして帰ることでしょうか。
<懸垂のメリットややり方についてもっと詳しく知りたい方へのおすすめ>
次にオススメなのが、腕立て伏せと腹筋です。いつでもどこでもすぐに出来るのが素晴らしいところ!
自宅などでやる筋トレはなるべくシンプルな方が良いです。あまり複雑なことをしようとすると
×フォームが崩れやすい
×準備が大変
×やる事そのものがおっくうになりやすい
などかえって効率が下がってしまったりしやすいです。
もちろん、中・上級者の方がレベルアップを目指すならビシバシ頑張ってください。今回は初心者向け、という事なので誰でもやり方がイメージ出来る腕立て伏せと腹筋運動をおすすめしました。
<腹筋を鍛えるには腹筋ローラーを使うのも手!詳しいやり方はこちら>
ボルダリングでは上半身に目が行きがちですが、下半身も大切です。
やはり、いつでもどこでもすぐに出来るスクワットとカーフレイズ(かかとを上げるトレーニング)が優秀!スクワットはフォームが崩れると膝や腰を痛めたりしやすいので気をつけてください。時間がない時や自宅でトレーニングをする時は僕もこの2つを欠かさずやっています。
<スクワットの正しいフォームを知りたい方へのおすすめ>
ここまで懸垂・腕立て伏せ・腹筋、そしてスクワット・カーフレイズとざっくりですが全身一通り鍛える事が出来ました。あとは登るだけ、レッツクライム!
<こちらの記事もボルダリングを上達したい方にはおすすめ>
ちょっと筋トレの話からそれてしまうのですが、クライミング中の怪我について注意して頂きたいところのお話です。
実は上半身は怪我というよりも故障(オーバーユースや体のバランスの悪化によって痛みが出ること)が多く、怪我(肉離れや捻挫・骨折などの身体的な損傷)は下半身が多いです。
代表的なのが着地に失敗しての足首の捻挫です。
意図して飛び降りる時、登るのに失敗して落下する時などマットがあるとはいえ落下のエネルギーは非常に大きく、ちょっとした不注意で足首を捻挫してしまう事があります。
どうしてもボルダリングのイメージから上半身だけ軽く動かしてすぐに難しい課題にチャレンジしてしまいがち、下半身は1日デスクワークで凝り固まった状態のままです。十分に筋肉が温まっていない状態で高い負荷がかかるような運動をすると肉離れにつながったり、思わぬ怪我を招く原因となります。
その場で軽くジャンプやもも上げをしたり、軽く筋トレをしたりしてしっかりと下半身を温める=筋肉が動きやすい状態を作っておく、ことで怪我のリスクを減らす事が出来ます。
ボルダリングは実際に登る事である程度必要な筋肉をつける事が出来ます。ここが他のスポーツと大きく異なる点です。
例えば野球だと、バットを振るだけではなかなか身体は成長しません。より力強いスイングをするために、筋トレをして筋肉を成長させ、その上でバットを振る技術を身につける、というのが基本的な考え方です。
ですが、クライミングは、常に重力に逆らいながら自分の体を支えながら壁を登るスポーツです。常に自重でのトレーニングをしている状態なのである程度は登るだけで身体が強くなります。だからといってクライミングだけをするよりも筋トレを混ぜた方が効率よく体を強くし、上達する事ができます。
週に1~2回の貴重なボルダリングの日により快適に楽しく登るためにも、自宅での筋トレを使って上手にパフォーマンスを上げてきましょう。登りに行く前日に軽く筋トレをしておくとその日の調子が上がりやすいです。
筋トレしましょう!というと決まって「ぇー」という反応が帰ってきます。やり始めると結構楽しいのですが、その気持は私もよくわかります。
どうしても筋トレというと「疲れる」「辛い」イメージがありますよね。
そこでちょっとイメージを変えてみて「コンディショニング」だと考えてみてください。
上述しましたが、翌日より楽しく登るためにちょっと体を動かす準備をしておく。登った後に疲労を早く抜いて次回より登れるために少し体を動かしておく。そう思うとちょっとやったほうがいいかも?と思えるのではないでしょうか。
また、前後左右のバランスの崩れは怪我や故障につながります。それを予防する意味でもクライミング中は使いにくい前側の筋肉(大胸筋や腹筋など)は腕立て伏せや腹筋で使ってあげると効果的です。
これもよく聞かれることなのですが、柔らかい事と上達はイコールではないですが、筋力同様に無いよりはもちろんあったほうが良いです。
柔軟性が高い事で、狭い動きが上手に出来たり、足を高く上げられるようになったり、肩をより後ろに引けるようになるなど、登り方の幅が広げられます。
ただ、固いなら固いなりに、工夫して登る事が出来ますし、そうした工夫もボルダリングの醍醐味の一つです。柔らかくなければいけない、とあまりとらわれず自由に楽しんでもらえたらと思います。
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初心者の方に向けて、筋トレの考え方と必要な筋肉などについてご説明してきましたが、軽くおさらいすると、以下の通りです。
1.基本的には、「登るために鍛える」のではなく「登りながら鍛える」という考え方。
2.筋トレを行うのは「コンディショニング」として、身体のバランスを良くするため
3.筋トレスイッチを作ろう!
4.まずはフォームを意識して少ない回数で始めよう
5.家で行う筋トレはシンプルで良い
5-1.上半身の前側は、腹筋や腕立て伏せ
5-2.上半身の反対側は、登っていたら鍛えられる
5-3.下半身は、スクワットとかかとを上げる動き
6.ストレッチで柔軟性を高めた方が、動きの幅が広がる!
皆さんが想像していたような筋トレとはちょっと違ったのではないでしょうか。
もし興味を持って、これなら自分でも出来そう!と思っていただけたのなら、ぜひとも筋トレを取り入れて、より充実したクライミングライフをお楽しみください!
まずは家帰って寝そべるところから(笑)